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“丸の内OL”の象徴だった「事務服」はこのまま絶滅するのか? 通勤着の削減メリットへの再評価の声も

2023-11-16 eltha

 かつてOLの象徴だった企業の女性用「事務服」。1998年に放送されたドラマ『ショムニ』(フジテレビ系)では、ブルーのミニスカートに身を包んだOLたちの物語がブームに。しかし、2006年に男女雇用機会均等法が改正、翌年に施行されたのをきっかけに、男女平等の観点から事務服を廃止する企業が続出。内勤中心だった女性の働き方も変わり、都心では自由服の流れが加速しました。逆に、医療現場でのメディカルウェアは多種多様に進化。創業120年の歴史を持ち、事務服、メディカルウェア双方の歴史を知るメーカー「フォーク」に、今後の展望を聞きました。

事務服のパイオニア「フォーク」の変遷

  • 事務服の最初は「スモック」だった(1963年〜東レ)画像提供:フォーク株式会社
  • 事務服の最初は「スモック」だった(1963年〜東レ)画像提供:フォーク株式会社
  • 事務服の最初は「スモック」だった(1963年〜東レ)画像提供:フォーク株式会社
  • 1970年頃の事務服カタログ
  • 1970年頃の事務服カタログ
  • 1974年頃の事務服カタログ
  • 1974年頃の事務服カタログ
  • 1974年頃の事務服カタログ
  • 1974年頃の事務服カタログ
  • 1979年頃の事務服カタログ

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大阪万博をきっかけにバリエーションも多岐に…事務服が“憧れの対象”となり就職理由にも

 女性用事務服の原点は、作業中に私服が汚れないように羽織る「スモック」。1923年の関東大震災以降、和装から洋装へとスタイルが変化。さらに、高度経済成長期に女性が働き手として労働市場に大量進出したことをきっかけに、需要が高まっていきました。1903年に創業したフォークも、1960年に事務服製造事業を開始しました。

「女性が、洋服や私物のブラウスを汚さないために開発されたのが“うわっぱり”と呼ばれるスモックです。当初は男性と同じような作業服を着ていましたが、その女性版という形で開発されました。派手さはなくシンプルなデザインで、当時多かった女性の事務仕事や内職の際に着用されていました」(新事業開発チーム・下北裕樹さん)
 その後、1970年の大阪万博で華やかなユニフォームを身にまとったコンパニオンが注目されると、事務服も少しずつ色やデザインのバリエーションが増え、高級化が加速。スモックから進化した、ツーピースタイプの事務服が登場します。

 同時に、女性の仕事自体も変化。それまでは事務や作業などバックヤードでの仕事が多く見られましたが、徐々に表に立つ業務も増えてくるようになりました。80年代には、ジャケットやベストといったデザインが主流になり、「あの制服が着たいから」という理由で就職を希望するなど、事務服は“憧れの対象”へと変化していきました。

「バブル期は各企業も余裕があり、福利厚生の一環として制服を貸与する流れが一般的でした。制服を3年ごとに変えたり、かわいい制服にすることでより多くの事務員さんに来てもらおうという企業も多く、事務服もブランドとコラボレーションするなど高級化が進みました」(企画室・山口淳さん)
 1985年には男女雇用機会均等法により、女性の事務服にも様々な議論が巻き起こります。「男性がスーツを買うのに、女性だけ福利厚生として会社から援助はどうなのか」「男女ともに自由服にすべき」などの意見が上がり、制服を廃止する企業も。しかし、特に金融機関やサービスは、制服の重要性について再認識するきっかけにもなったと言います。

「例えば、銀行の方が事務服を着ていないと、窓口に着たお客様は、『本当に銀行の人なのだろうか?』という不安が生まれます。事務服がお客様からの“信頼感”や“安心感”につながることに加え、働く側の帰属意識が生まれることからも、事務服の存在意義が再認識されるきっかけになりました」(下北さん)

 また、人気ドラマなどメディアの影響で、事務服が注目されるケースも。1998年に第1シーズンが放送されたドラマ『ショムニ』では、白いブラウスにブルーのベスト&ミニスカートの制服が象徴的に描かれ、“OL”を分かりやすく表すシンボルとなりました。

リーマン・ショック時はシックな装い、近年はLGBTQの観点からパンツスタイルも…時世を象徴してきた女性用事務服

 そもそも事務服は、制服としての役割があるもの。顧客との区別をつけるためのアイコンでもあり、数年間毎日着用するため「耐久性と普遍性」という点でも、スーツとは大きな違いがあります。

「毎日8時間以上着用するので、長期間の着用と洗濯に耐えられる生地や縫製が必要です。また、採用いただくと数年間着用されるので、同じものを供給し続けることも求められます。そのため、一般アパレルよりも色や形が流行に大きく左右されにくい、ロングトレンドのものを採用していて、中には20年近くも出続けているデザインもあります」(下北さん)
 また、幅広い年代が同じ色、デザインを着用するため、誰が着ても似合うようなデザイン、着用感、サイジングに仕上げているのも特徴。とはいえ、時代の流れによって変化も。2005年頃は、好感度やモテを意識したコンサバファッション、いわゆる“赤文字系”の流行に合わせ、ピンクやグリーンなどのカラーデザインも登場。事務服のカタログも、ファッション誌のようなキラキラ感と、赤文字系モデルを起用していました。

 2008年のリーマン・ショック以降は、モノトーンのチェック柄、ストライプやグレー、ブラックの無地など、シックな装いがトレンドに。2018年頃からは、接客を伴う“おもてなし市場”の増加により、はっきりとした配色の華やかな柄のアイテムやワンピース、大きめのリボンなどが多く見られるようになりました。さらに最近では、学生服と同様LGBTQの観点から多様化も進んでいます。スカートだけでなくパンツなど、現代社会の流れに合わせたデザインが取り入れられています。

首都圏や地方ではいまだ事務服の需要あり、通勤着にお金をかけないメリットへの再評価も?

 2006年の男女雇用機会均等法の改正に伴い、事務服や制服に対する企業の考え方にも変化が。リーマン・ショックなど不況のあおりを受け、経費削減のため事務服・制服廃止が相次ぎ、かつて“丸の内OL”の象徴だった制服は大きくその数を減らすことに。新たに勢力を伸ばしたIT系やベンチャー企業などは元々ユニフォームを着る文化がなく、採用されていない場合も。

 しかし、銀行や病院の受付、接客サービスなど、“その企業の人は誰なのか”が明確に分かる必要のある職場では、アイコンとして変わらず事務服を着用しているケースが多く見られます。

「都心では減りましたが、首都圏や地方など、従来のお客様からは引き続きお声をいただき、事務服を着ていただいております。制服のまま車で通勤され、帰りにそのままお買い物をされて帰宅される方も多く、日常的にそういう光景が見られる場所もあります。そのため、帰宅途中のスーパーなど、街に溶け込むようなデザインの製品もお作りしています」(山口さん)
 毎日服を選ぶ必要がないので、朝の忙しい時間の時短になり、着替えなくても良い便利さも。また、通勤着にお金をかけない分、自分のファッションにお金をかけられるメリットもあり、重宝されている一面もあるのです。

 時代の流れやニーズに合わせて、制服の機能性も進化しています。胸ポケットには、ネームタグをつけやすい工夫があったり、ペンを入れた時にインク漏れしても滲まない加工処理も。スマホを入れやすいようにポケットが二重になっており、印鑑をしまえるように、ポケットの中にポケットがあるデザインも開発されています。

「絶えず新しい価値を生み出すことは意識して、開発をしています。万年筆からタブレットPCに変わったことで、電磁波を受けないような事務服を開発したり、時代のニーズに合ったものを提案している状況です。これからも変遷を重ねていけるように、知恵を絞っていきたいと思っています」(下北さん)

メディカルウェアが両翼に 日本の文化として「これからも事務服を作り続ける」

 事務服の両翼になる存在として、2000年頃から存在感を強めているのが、医療現場で着用されるメディカルユニフォームです。ひと昔前に“看護婦さん”のイメージだった白いワンピースにカーディガン、ナースキャップというスタイルは姿を消し、今は“看護師”として男女問わず様々なスタイルが。医師、薬剤師、理学療法士から、美容系、エステまで、医療現場でのユニフォームの需要は増加傾向にあります。

「例えば病院でも、受付の方は事務服、看護師さん、理学療法士さんとユニフォームがデザインやカラーで分かれていることで、患者さんが誰に声をかけたらいいのか分かりやすいというメリットが活かされていると思います。今後も、事務服とメディカルウェアという両翼で、さらなる提案を続けていきたいと考えています」(下北さん)

 企業の制服廃止の流れ、日本の人口の減少に伴い、今後の需要は期待しづらい市場環境。しかし、長年にわたり事務服を作り続けてきた同社は、社会には必ず、制服というものに対する意味や役割はあると力強く語ります。

「今後、需要が増加することは難しいと思いますが、事務服には事務服のよさが、アパレルにはアパレルのよさがあるので、我々はこれからも変わらず、事務服を作り続けていきたいと思っています。メディカルウェアも含め、常に次の仕掛けや調査をしながら、新たな価値を生み出していきたいですね」(山口さん)

事務服のパイオニア「フォーク」の変遷

  • 事務服の最初は「スモック」だった(1963年〜東レ)画像提供:フォーク株式会社
  • 事務服の最初は「スモック」だった(1963年〜東レ)画像提供:フォーク株式会社
  • 事務服の最初は「スモック」だった(1963年〜東レ)画像提供:フォーク株式会社
  • 1970年頃の事務服カタログ
  • 1970年頃の事務服カタログ
  • 1974年頃の事務服カタログ
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  • 1979年頃の事務服カタログ

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