ホーム 子育て > 英語の早期教育に抱いた幻想、なぜ「負の遺産」と語られる? 根底にあるのは日本特有の“完璧志向”

英語の早期教育に抱いた幻想、なぜ「負の遺産」と語られる? 根底にあるのは日本特有の“完璧志向”

2023-11-13 eltha

コロナ禍を経てオンライン英会話にオンライン教材、英会話アプリなども人気に

コロナ禍を経てオンライン英会話にオンライン教材、英会話アプリなども人気に

 「中学、高校と6年間も英語を学んだのに話せない!」━━多くの日本人が持つ英語への苦手意識。グローバル化が進む中、そんな状況を打破するべく、文部科学省は2020年より小学校での英語教育を必修化。子どもの習い事ランキングにおいても英語は上位となり、とくに幼児期からの早期教育が盛況です。しかし、早いうちから習ってさえいれば“英語が使える人”になれるのか…? 英語教材プロデューサーとして教材や開発のディレクションを行うなど、英語を生業にしているユッキーさんに、幼少期の英語教育で失敗しないコツや、英語が得意になる秘訣を聞きました。

幼少期のモチベーションは「幼稚園・学校以外のコミュニティがあること」だった

 4歳から英語を学んだものの、中学1年まで人前で堂々と英語が話せなかったと振り返るユッキーさん。4歳から英語を習い始めたきっかけは2つ。ひとつは英語コンプレックスを持つ祖父と母の2世代からの「この子こそ」という期待を込めた教育方針。そしてもうひとつは、当時、誕生して間もなかったヤマハ英語教室の“歌ったり踊ったりしながら英語を身につける”という学習方法にユッキーさん自身が興味を持ったことでした。

「スクールにはとても楽しく通っていました。英語を習うことよりも一番の楽しみは、幼稚園や小学校以外に自分のコミュニティが持てて、いろいろな境遇や世代の人と話せることでした」

 しかし、小学校に上がってしばらくした頃、ユッキーさんは英語の教室を「やめたい」と思うように。

「教室を卒業する選択肢を取る人も出てきて、大好きだったコミュニティの友達が減っていってしまったんです。たぶん、みんないくつものお稽古ごとに通っていて、小学校に上がって忙しくなるとともに、サッカーなどのスポーツや塾などのプライオリティが高くなってしまったのだと思います。レッスン自体は楽しいものでしたが、友達が減るにしたがって、続けることに価値を見出しづらくなった時期がありました」

 当時、ユッキーさん自身も5つの習い事に通っており、「もっと友達と遊びたい」という気持ちを抱くようになったことも、やめたい気持ちを強める要因になったといいます。しかし、それでもやめずに続けられたのは「性格によるものが大きかった」と分析。

「私自身、けっこう“いい子ちゃん”だったんです。やめたいと思っていても、教室に行けばちゃんとやれてしまうし、先生に『やめたいなんて言わないで、もうちょっとがんばろうよ』と言われると『ハイ!』と答えてしまう性格でした。私の母も自分が”英語ができなかった子”という自覚があり、母が”できる子”になれなかった一番の理由が、すぐ辞めたこと。そして母の親もすぐ諦めたことにあったらしく。我が子には『なんとか続けさせてあげたい』 という気持ちが強かった。教室に送り届け、先生に引き渡しさえすれば、私が楽しくやっていたこともあり、とにかく続けてもらうことだけを意識しよう、というところはあったみたいです」

スタートダッシュが速いぶん、期待に“完璧に応えられないこと”がコンプレックスに

現在、英語教材プロデューサーとして活躍するユッキーさん

現在、英語教材プロデューサーとして活躍するユッキーさん

 小学校に上がっても教室に通い続けたユッキーさん。しかし、継続して学び続けるに従い、英語がユッキーさんにとって武器ではなく、正反対のコンプレックスに変わっていきました。

「これは日本人が英語を話せない理由によくあげられることですが、『正解を目指す』とか、『間違えたら恥ずかしい』という気持ちが原因でした。とくに、当時はまだ英語教室が今のようにメジャーではなく、通っている子が少なかったので、『英語を習っているなんてすごいね』とか『だったら喋れるんだろうね』とまわりから言われ、自分自身、それが気持ち良かったために、なおさらちゃんと話さなければという完璧意識を持ってしまい、人前で堂々英語を話すことに自信が持てなくなってしまったんです」

 褒めたつもりのささいなひと言が子どもにとってプレッシャーとなり、それがコンプレックスへとつながる可能性があるのだから、大人の発言には注意が必要になるともいえます。さらに、中学1年のときに経験したある出来事で、ユッキーさんは英語に対してさらなる苦手意識を持ってしまいました。

「英語教育で有名な女子中高一貫校に入学したのですが、英語教室に通っていたのは、学年の1割もいないくらいだったので、当然、自分はまわりの子よりできると思っていました。ところが、校内の英語暗唱コンテストで、堂々と発音することができずに落とされてしまったんです。これも日本人の英語コンプレックスやトラウマの原因としてよくあげられることですが、日本人は“発音がいいことを重視し過ぎる”んですね。日本以外の多くの国は英語は通じているか通じていないかの評価点だけで、発音にはとらわれません。発音が悪くても通じれば問題ないんです。でも、当時の私はそれを知らず、落とされたのだから自分の英語はダメなんだと思ってしまいました」

 同級生よりもはるかに長く、4歳から英語を習ってきたという自負があっただけに、そのショックは容易に想像できます。さらにもう1点、中学の授業では、こんな苦悩にも直面したとユッキーさん。

「文法がよくわからなくて、文法問題になると間違えていました。スクールではとにかく英語に親しむこと、場面に合わせて、どんどん使って覚えることが中心だったので、そこに日本語を介し、日本語を使って英語のルールを理論的に理解するという習慣がありませんでした。日本人が、助詞の『は』と『が』の違いは何かと聞かれて答えられないのと同じような感覚でしょうか。これも、幼少期から英語を習っている子に起きがちなことだと思います」

「初めて、自分のために自発的に夢中で英語を習得した」中学1年生での転機

中学時代、学校主催の国際交流キャンプでのユッキーさん「英語は好きでしたし、こういったイベントにも積極的に参加するのだけれど、やっぱり緊張しがちでした」

中学時代、学校主催の国際交流キャンプでのユッキーさん「英語は好きでしたし、こういったイベントにも積極的に参加するのだけれど、やっぱり緊張しがちでした」

 そんなコンプレックスから抜け出し、英語を武器に変えることができたのは、勉強から離れた趣味がきっかけとなりました。

「『ハリーポッター』の世界にハマって、セリフを全部覚えるくらいビデオテープを観続けていたんです。もう狂ったように集中して(笑)。その膨大な作業を経たら何が起きたかというと、校内の発音コンテストも通過できるようになって、授業で出てくる文章も1回で覚えきれるなど、成績が上がっていき、英語に対して自信を持てるようになったんです。今、俯瞰してとらえると、それまでは、全部お膳立てされたうえで、英語をお稽古事としてこなしているだけだった私が、初めて、自分のために自発的に夢中で英語を習得した。それが良かったのだと思います」

 これを機に、中学3年時には、全国中学校英語弁論大会で10万人中、最終27名に選出されるまでに。そして、高校時代は、ゲームの『ゼルダの伝説』がユッキーさんの英語力を高める力となりました。

「ゲームのより詳細な攻略情報や新作情報を得るために、情報量の多い海外のサイトを調べるようになって、それを繰り返しているうちに、長文読解で間違えることがなくなったり、リーディングのスピードが向上したりしました。好きなものができたことで、英語が習い事や宿題などの『やらねばならない』勉強ではなく、自分にとって必要なものに変わったんですね。英語が上達するためには、英語を“学ぶ”のではなく、“ツールとして使う”ことが最速だということをこのとき身をもって知りました」

 ここまでのユッキーさんの体験を振り返ると、いかに自発的な興味関心、学びのきっかけを見つけられるかがカギとなることがわかります。一方で、幼児期からの英語教育は無駄なのかと思われるかもしれないですが、けしてそうではないとユッキーさん。「英語に慣れていたこと、英語が好きであると思わせてくれたこと…スクールで身に付けた英語が私の下地としてあったからこそなのだと思います。自発的に英語を使いたいと考えたときに、幼い頃から培ったすべての力が花開いた」と、ユッキーさんは4歳から英語を学ぶ環境を作ってくれた親への感謝を語ります。

「英語教室に通ったことを負の遺産のように語る大人の方は多いですが、やってきたことはちゃんと自分の中に下地として入っていると思います。英語は他の習いごとと比べ『どのくらいできるようになっているのか』その効果を実感するまでとても時間がかかるところがあります。堂々と会話しているだけが評価点ではなく、なかなか芽が出ない、続けていて意味あるのかな...? という状態でも、やはりやっていた人と、まったくやっていなかった人との間では花開いた時の爆発力が違うのです」

 問題なのは、それを活用できない日本人のマインドだとユッキーさんは断言します。

「本当はすでにいろんな英語の力が備わっているのに、『自分はできない』と本人が思ってしまうことが多いと思います。ですから、私の知り合いで英語を教えている先生やコーチの中には、そのストッパーをはずすべく、過去の何がトラウマになって英語に自信がないのか、話せないのかを紐解くライフコーチに転身される方もいらっしゃるほどです」
『ハリーポッターと賢者の石』で英語文発音そう攻略チャレンジ。今では当時の体験をコンテンツ化するまでに

”親も発している音”であることが伝わると『私も発してみよう』が自然なものに

 ユッキー先生は現在2歳半になる子どものママでもあります。子どもにはどんな英語教育を施しているのか尋ねてみると、意外な答えが返ってきました。

「スクールに通うこともなく、家でも、まだこれといった英語教育はしていません。今はまず、おしゃべり相手として私のことを認識し、人として信頼してもらえる関係性を築くためにも、日本語をちゃんと入れなければいけない時期。英語の時間を増やすのは、もう少し後でもいいかなと。とくに今は日本語でさえ説得が大変なイヤイヤ期ですし(笑)。ただ、例えば素晴らしい仕掛け絵本には英語でしか出ていないものもありますので、それを読んだり、家族全員が音楽好きなので、言語やジャンル問わず様々な音楽をかけています。リズム感を養うことは、英語を話すことにプラスでしかありませんので、結果的にこれが英語教育に繋がっているのかもしれませんね」

 早期から英語に触れさせたほうがいいだろうという考えから、英語版の音楽やアニメなどの映像を流しているご家庭もありますが、それについて、ユッキーさんは「聞かせたり、見せたりしているからといって、それで英語を吸収するとは思わないほうがいい」とアドバイス。

「良いことがあるとすれば、英語ってこんな感じの音だということがわかることと、英語の音に違和感を持たずに慣れることくらいだと思います。その意味でアニメを利用するなら、日本語の吹き替え版があることがバレているものは避けて、日本語吹き替えが存在しない、例えば子どもの英語教育で使われている『PeppaPig(ペッパピッグ)』などはオススメです。『これは英語でしか見られないんだ』と本人がわかれば、自主的に楽しむようになります。日常生活のなかで、親が遠慮しないで英語を発するのも大切です。自分だけじゃなくて、親も発している音であることが伝わると『私も発してみよう』が自然なものになります」

 日本と海外の決定的な違いは、日本は英語を読解できることに重きを置き、海外は英語で意見を発言できることを重視することでした。しかし、学校における英語教育も「すごく変わってきていて、自分たちの世代の固定概念で『学校の英語もどうせ…』と勝手に決めてはいけない。親も考えをアップデートしていかなければならない」とユッキーさん。英語を勉強ととらえるか、手段だととらえるか。なかなか制度や仕組み、考え方を変えることができていなかった部分について、今こそ目を向けてみるべきだといえるでしょう。

取材・文/河上いつ子
ユッキー

PROFILE ユッキー

英語教材プロデューサー、ナレーター。福岡県北九州市生まれ、日本育ち。20代〜70代まで、幅広い年齢層の学習者が集うオンラインサロン「DMMオンラインサロン英語科準備室 powered by ユッキー」主宰。その学びを教材化させたプロジェクトは応援購入サービスMakuake Award2021 Best Supporter賞に輝く。オンラインで集合知を作り出したストーリーが高く評価され、DMM SALON FES2021ではグランプリを受賞。現在、2023年10月から3ヶ月限定で開設されている、テレビ東京「田村淳のTaMaRiBa」発実践型ビジネス英語学習コミュニティ「どんどんしゃべる!英語部」で英語学習を続けるためのTips動画をサロン内にて配信中!

Facebook

関連リンク

あなたにおすすめの記事

おすすめコンテンツ


P R
お悩み調査実施中! アンケートモニター登録はコチラ

eltha(エルザ by オリコンニュース)

ページトップへ