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ぽっちゃりや低身長、脇毛も…多様性の時代におけるファッション誌とモデルのあり方「多様性よりも細分化へ」

2022-09-06 eltha

かつてヴィクトリアズ・シークレット“エンジェル”の一員だったミランダ・カー (C)ORICON NewS inc.

かつてヴィクトリアズ・シークレット“エンジェル”の一員だったミランダ・カー (C)ORICON NewS inc.

 先日、ファッション誌『VOGUE』(コンデナスト・ジャパン)の表紙に、脇毛を処理していないモデルを起用し、話題になった。「ありのままの自分を受け入れ、愛する」ことを意味する「ボディ・ポジティブ」という言葉が広がり始めたのは2012年頃のこと。それから10年、いまやプラスサイズや低身長モデルなど、さまざまな容姿や体型のモデルが活躍している。メディアやファッション業界が「モデル」という職業を通じて発信し、やがて一般女性のボディイメージを縛り付けることにもなった画一的な美の価値観は、多様性が求められるいま、どこまで解き放たれるようになったのだろうか。

リアルな体型とはかけ離れた「モデル体型」、ブランドイメージを守るための防具だった

雑誌『la_farfa』

雑誌『la_farfa』

 プラスサイズモデルや低身長モデルが活躍するようになった昨今、「モデル体型」という言葉ももうすぐ死語になるかもしれない。かつて言われた「モデル体型」とは、スリムな高身長に長い手脚、小顔といった体型の特徴を指す言葉。主役はモデルではなくあくまで商品であり、モデルには洋服や小物といったプロダクトを美しく見せるスペックが求められた。アパレル業界が「映え」を追求した結果、起用したのが「モデル体型のモデル」だった。

 日本初のプラスサイズ専門ファッション誌として2013年に発刊された『la farfa』(文友舎)の高井淳編集長は、「発刊当時には、洋服のリースにとても苦労しました」と述懐する。

「通常、アパレルブランドでは展示会やショーで発表するためにサンプルが作られ、ファッション誌へのリースにも使われます。ところが大きいサイズを展開しているブランドさんでも、プラスサイズのサンプルは作っていないところが殆どでした」

 サンプルを作らない理由はさまざまだが、高井編集長は「過去には、ブランドのイメージを損ねないために、『プラスサイズモデルには着てほしくない』とはっきり言われたこともあった」と明かす。

 Netflixのドキュメンタリー『ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰』には、「デブにはうちの服を着てほしくない」というCEOの発言により大炎上→人気絶頂期から全米で最も嫌われたブランドになるまでが描かれているが、表明はしないまでも同じような思惑のブランドは日本にもあったようだ。

 ともあれ一般消費者のリアルな体型とはかけ離れた「モデル体型」だが、イメージを重んじるブランドにとっては欠かせない存在だったのはたしかだ。

消費者は理想やファンタジーよりも、モデルに対して“リアル”さを求めるように

 90年代のスーパーモデルブーム以降、モデルたちはブランドのマネキンから、女性たちのライフスタイルに影響を与える存在になった。なかでも憧れを集めたのが、洋服をキレイに着こなすスリムな体型だ。メディアから発信される「痩せていることは美しい」という価値観は、過激なダイエットの原因にもなった。厚生労働省の調査によると摂食障害の受診患者は1992年から1998年の間に5倍に急増しており、その後も高い水準で横這いとなっている。

 痩身を維持することが仕事に関わるモデルにも、接触障害患者は少なくない。2006年にはついに21歳のブラジル人モデルが低栄養のため死亡。その後も摂食障害が原因によるモデルの死亡事例が次々と発覚。この事態を重く見たフランスやイタリア、スペインなどでは起用するモデルのBMI値を規制するガイドラインが施行された。日本でも摂食障害学会が、「痩せすぎモデル規制ワーキンググループ」を立ち上げて議論を進めている。

 もちろんなかには、自然かつ健康な状態で平均よりも痩せているモデルもいるだろう。しかし、スリムな8頭身の「モデル体型」は多くの一般消費者とかけ離れており、憧れやファンタジーは喚起できるものの、着用イメージを掴めないことから「本来のモデルの役割を果たせていない」という批判もあった。

 ランジェリーブランドのヴィクトリアズ・シークレットでは、数々のスーパーモデルを輩出してきた専属モデル制度「エンジェル」を廃止。多様なボディラインや肌の色のモデルを起用する大幅な路線変更で、長らく続いていた業績低迷を脱しつつある。

 プラスサイズモデルや低身長モデルが活躍するようになった背景には、「痩せすぎモデル規制」以上に、消費者がマスに投下されるファンタジーよりも自分に本当に役に立つリアルを求めるようになったこと。そしてそれを敏感に察知し、ビジネスに反映したアパレル業界の戦略があったことが考えられる。

「消費者が参考にしたいのは、自分にとってリアルな着こなしであること。インフルエンサーが流行ったのもその1つの現象で、“model=お手本、規範”といった本来の意味に近づいてくると思います」(高井淳編集長)

消費者のニーズを反映し、ファッション誌は多様化よりも細分化へ

 2012年頃からインターネットを中心に広まったボディ・ポジティブムーブメントは、そもそもスリムな白人モデルばかりを起用するファッション業界に対し、非白人モデルたちが抗議する形で「#BodyPositive」と発信したのが始まりだった。

 ボディ・ポジティブの概念は体型や肌の色に止まらず、体毛や傷などもその対象になっている。先頃は世界的に影響力のあるファッション誌『VOGUE』8月号の表紙に、脇毛を処理していないモデル(エマ・コリン)を起用。「ムダ毛のない滑らかな肌こそ美しい」といった画一的な美の概念から自らを解き放ち、表現をする姿が大きな反響を呼んだ。

 注意したいのは「ボディ・ポジティブ」が痩せ批判でもプラスサイズ称賛でも、「体毛を処理する/しないこと」へのジャッジでもなく、「ありのままの自分を愛する」という意味合いであること。対義語は「ボディ・シェイミング」で、これは人の容姿に対して否定的な意見を言うことを指す。

 それでもプラスサイズモデルがボディ・ポジティブの象徴として捉えられるのは、「モデル=痩身」のイメージが長らく根強かったからだろう。

 時代の価値観は急速に変わり、消費者のニーズを反映するようにプラスサイズモデルは職業として確立するようになった。『la farfa』モデルのなかにも読者モデルからスタートし、モデルとして1本立ちする人が徐々に増えているという。では「モデル体型」という定義がなくなった世界で、モデルという職業はどんな姿をしているのだろうか。

「モデルの役割は、洋服の着用イメージを伝えることです。そして人間の体型は多様ですから、今後はさらにモデルの体型も細分化されていくのではないでしょうか。『la farfa』モデルの起用の際には、前向きにおしゃれを楽しむマインドを重視しています。体型でおしゃれを諦めてきた方の背中を押す存在になってほしいからです。ファッション誌が本当の意味で多様性を目指すなら、いろいろな体型のモデルが1冊の雑誌に収まっているのが理想かもしれません。ただ読者のニーズを考えると、多様化よりは細分化のほうに進んでいくと考えられます」(高井編集長)

 メディアを通してモデル本人にも消費者にもかけられた「理想の体型」や「ルッキズム」の呪縛。そこから自らを解き放ち、ファッションを通して消費者にポジティブな影響を与えられる存在。それがこれからの世界で望まれるモデルの姿といえそうだ。

(文/児玉澄子)
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